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法務アウトソーシングスタートアップ法務

シリーズA後に、法務体制をどう作り直すべきか

こんにちは。LegalAgent 代表弁護士の朝戸です。

シリーズAの資金調達が完了すると、会社の景色は短期間で変わります。採用候補者との面談が増え、取引先との契約が積み上がり、投資家への報告が定例になります。契約レビューや株主対応、採用・労務、規程整備が同時に動き始め、どれから手を付けるべきか迷う状態になりやすいのがこの時期です。

このときの法務体制づくりは、重い管理部門を先に作る話ではなく、事業スピードを止めずに判断の質を上げる仕組みへの作り直しだと考えています。法務が早い段階で論点を見つけ、経営と現場が動きやすい選択肢を示せる体制が求められます。

法務専任者を採用したい気持ちは、この時期に自然と出てきます。ただ、契約件数や株主対応、労務相談が毎月一定量で発生するとは限りません。採用すれば固定費になりますが、案件量は事業フェーズによって波があります。そこで現実的になるのが、外部弁護士を内部法務部員のように使い、契約レビューだけでなく、契約ひな型の整備や株主対応、経営会議に上げる論点の作成まで任せる形です。

商談段階からの法務関与

契約書の最終確認だけを法務に回す運用は、シリーズA後には限界が出やすくなります。責任範囲や知的財産の帰属、独占条件などは、契約書がほぼ固まった後では直しにくいためです。売上への影響が大きい契約、新規事業、海外企業との取引は、初期段階で論点を確認しておく価値が大きい領域です。

法務に早く相談することの意味は、契約交渉を慎重に進めることだけにあるわけではありません。営業上どこまで譲れるのか、将来の資金調達やM&Aでどの条件が説明しにくくなるのか、相手方に代替案を示せるのか。これらを商談の前半で見ておけると、法務はブレーキではなく、交渉設計の一部として機能します。

前倒しが難しい理由の多くは、法務側が商談の存在をそもそも知らないことにあります。案件管理表や営業会議の議事録を共有してもらう、一定の取引規模や新規性のある案件は法務に一報を入れる、といった入口の取り決めを作っておくと、相談の前倒しは担当者の心がけに頼らず仕組みとして機能するようになります。

契約レビューの判断基準づくり

シリーズA後は、業務委託や共同開発など契約の種類が広がります。経営陣や一部の担当者だけで確認し続けると、判断基準が案件ごとに揺れていきます。金額や契約期間、損害賠償など、会社として重視する項目を先に決めておくと、誰が確認しても品質が安定しやすくなります。

基準の書き方としては、条項ごとに「原則として受け入れる」「修正を求める」「経営判断に上げる」の三段階に分けておくと、後から加わった担当者や外部弁護士とも共有しやすくなります。判断に迷った案件については、結論と理由を短く記録しておく。この積み重ねが、そのまま自社のレビュー基準を改訂する材料になります。

AIは、契約書の初期確認や論点抽出に有用です。一方で、会社の交渉力、資金調達後のガバナンス、将来の上場やM&Aの可能性を踏まえた判断は、弁護士と経営陣が担う領域として残ります。

株主対応・ストックオプションの日常運用

投資契約や株主間契約に定める事前承諾事項、情報提供義務は、調達時に確認して終わりにはなりません。資金調達後の経営判断の中で、どの事項に投資家の同意や報告が必要になるのかを把握していないと、承諾を取り忘れたまま意思決定が進み、後の資金調達やデューデリジェンスで指摘を受けることになります。

採用を強化する会社では、ストックオプションの設計と運用も並行して問われます。付与対象者や行使条件、税務上の要件によって、制度の受け止められ方は変わる可能性があります。次回ラウンドや採用計画を見据えて、付与のたびに実務運用まで確認しておくと、後の手戻りを防げます。付与契約書、株主総会や取締役会の決議、資本政策表の記載が食い違っていないかも、付与の都度そろえて見ておきたい点です。ここがずれたまま進むと、次のラウンドのデューデリジェンスで発見され、調達スケジュールの中で修正に追われることになります。

採用拡大と労務・規程の追いつかせ方

シリーズA後は、採用人数が急に増えることがあります。組織が大きくなると、就業規則や雇用契約、ハラスメント対応との接続が問われます。

大企業と同じ厚い規程を一気に作る必要はありません。現在の人数、採用予定、リモートワークの有無、業務委託人材の活用状況、営業秘密の取扱いを踏まえて、いまの会社に合った実務的なルールを整備することになります。業務委託と雇用の線引きや、未払い残業のリスク、相談窓口の設計は、人数が増えてからでは直しにくいため、早めの見直しが望ましいと考えます。

外部弁護士の組み込み方

シリーズA後の会社では、法務専任者をすぐに採用できるとは限りません。他方で、契約や株主対応、知的財産、社内規程の論点は増えていきます。外部弁護士を「困ったときにだけ相談する相手」にとどめず、法務相談の入口、契約レビューの優先順位、経営陣への報告の仕方まで含めて日常運用に組み込むと、この時期の負荷に対応しやすくなります。

依頼の仕方も変わります。「この契約書を見てください」だけでは、返ってくるのも契約書のコメントだけです。「売上を優先したいが、譲れない条件は何か」「投資家に説明しにくい条項はどれか」「相手方に出せる代替案は何か」という形で相談すれば、回答も経営判断に使える形になります。

毎月の契約レビュー件数、相談内容、未対応リスク、次に整えるべきひな型を見える化しておくと、法務専任者を採用するタイミングも判断しやすくなります。外部法務を変動費として使いながら、どの時点で社内法務を置くかを見極める。これがシリーズA後の現実的な体制づくりだと考えられます。

始め方としては、大きな法務プロジェクトを立ち上げるより、月次で相談日を決め、重要契約や株主対応、社内規程の未対応事項を確認する形が入りやすいはずです。案件が少ない月は軽く、資金調達や大口契約、M&A検討が動く月は厚く、という強弱を付ければ、固定費を抑えながら法務機能を維持できます。

経営会議への接続と判断の記録

法務論点を現場だけで抱え込まないことも、この時期の要点です。大口契約の責任制限、共同開発の知的財産、投資家の事前承諾事項、退職者のストックオプション、未払い残業のリスクなどは、契約担当者や管理部門だけで決めるには重い場合があります。

こうした論点で外部弁護士に期待したいのは、結論を一つ述べることより、選択肢を並べることです。相手方の案を受け入れる場合のリスク、修正案を出す場合の交渉ポイント、取引を進めない場合の事業上の影響。この三つを比較できる形で経営会議に出せば、経営陣はその場で判断しやすくなります。

判断した後は、簡単なメモを残します。長い報告書である必要はなく、検討した選択肢や採用した案、残るリスクが分かる程度で足ります。後に投資家、監査法人、買主候補から質問を受けたとき、「当時の事業上の必要性」「把握していたリスク」「対応方針」を説明できるかどうかは、このメモの有無で変わります。法務体制を作るとは、書類を増やすことより、会社として説明できる意思決定を積み上げることだと考えています。

月次で見る法務運用

シリーズA後の法務体制は、立派な規程を一度作って終わりにはなりません。毎月、契約レビュー件数、未締結の重要契約、投資家承認が必要になりそうな事項、ストックオプション付与候補、採用・労務の相談、個人情報や情報管理の未対応事項を確認する。この定点観測だけでも、抜け漏れはかなり減ります。

ここに外部弁護士が入ると、法律相談への回答にとどまらず、「今月はこの論点を経営会議に上げた方がよい」「この契約類型はひな形を作った方がよい」「この採用計画ならストックオプション設計を見直した方がよい」という形で、法務を経営判断に接続できます。納品物も、契約書の赤字だけでなく、経営陣向けの一枚メモ、事業部への確認質問、投資家に説明するための論点メモ、次月までの対応リストまで返す形に変わります。管理部門が少ない会社ほど、この形の効果は大きくなります。

法務を「問題が起きたときに相談するもの」にしないこと。事業が伸びる前提で、先に論点を見に行くこと。シリーズA後の法務体制は、この運用を作れるかどうかで差が出ると考えています。

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