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シリーズA前にストックオプションで後悔しないために

こんにちは!Legal Agent 代表弁護士の朝戸です。

シリーズA前後で、ストックオプションの相談はかなり増えます。

採用を強化し、優秀なエンジニアや事業責任者を口説き、創業初期から支えてくれたメンバーに報いながら、上場やM&Aを見据えたインセンティブ設計をきちんと作りたい、というニーズはかなり多いと思います。

どれも自然な相談です。

ただ、ストックオプションは「とりあえず付与しておけばよい」という制度ではありません。設計を誤ると、将来の資本政策、採用、退職者対応、税務、投資家との条件交渉に影響します。

現場では、ストックオプションは採用の武器であると同時に、資本政策そのものだと考えています。シリーズA前に見直すべきポイントをまとめます。

特にシリーズA前後では、ストックオプションは「誰に何個渡すか」という個別判断だけでは足りません。採用計画、既存メンバーへの報い方、投資家との希薄化負担、将来のM&AやIPOでの説明可能性までつながるためです。

この段階で法務専任者を固定費で採用するか迷う会社も多いと考えられます。ただ、ストックオプションの設計は、毎日大量に発生する事務というより、節目ごとに重い判断が生じる領域です。外部弁護士を内部法務部員のように使い、資本政策表、採用計画、投資契約、株主間契約、発行手続を横断して見てもらうことで、必要な時期に必要な分だけ法務機能を使うことができます。これは、法務機能を固定費だけで持つのではなく、重要な意思決定が発生するタイミングに変動費として厚く使う発想に近いと考えています。

ストックオプションプールは、次の採用計画から逆算する

まず確認すべきなのは、どの程度のストックオプションプールを確保するかです。

よくあるのは、「何となく10パーセントくらい」と決めてしまうケースです。もちろん、実務上よく見かける水準はありますが、会社ごとに必要なプールは違います。

重要なのは、シリーズA後の12か月から24か月で誰を採用するのかです。

最高技術責任者、エンジニア組織責任者、最高財務責任者、事業責任者、営業責任者、プロダクトマネージャー、シニアエンジニアなど、採用したい人材のレイヤーによって、必要な付与水準は変わります。

また、既存メンバーへの追加付与も考える必要があります。創業初期に低い報酬で入ってくれたメンバーと、シリーズA後に高い市場価値で入るメンバーとのバランスをどう取るかは、組織づくりの問題でもあります。

ストックオプションプールは、多ければよいわけではありません。既存株主の希薄化にもつながります。他方で、少なすぎると採用時に十分なインセンティブを提示できなくなります。採用計画と資本政策を同時に見ながら決めることが重要だと考えています。

「誰に何パーセント」より、条件設計が重要になる

ストックオプションの相談では、「この人に何パーセント渡すべきか」という話が最初に出ることが多いです。

もちろん、付与割合は重要です。ただ、実務上は、それ以上に条件設計が重要になることがあります。

たとえば、ベスティングをどう設計するか。入社直後に権利が確定するのか、4年間で段階的に権利が確定するのか、1年のクリフを置くのか。

退職時に未行使分をどう扱うか、退職後何日以内に行使しなければならないのか、懲戒解雇や競業行為があった場合にどうするのかも、早い段階で決めておく必要があります。

M&A時に未確定分を加速させるのか、上場前の行使を認めるのか、業務委託先や副業メンバーにも付与するのかによって、設計はかなり変わります。

こうした条件は、付与時には細かく見えるかもしれません。しかし、退職者が出たとき、M&Aの話が出たとき、次回ラウンドで投資家から質問されたときに、会社の意思決定を左右することがあります。

ストックオプションは、単なる契約書ではなく、将来の組織運営のルールでもあります。

税制適格ストックオプションは、要件確認を後回しにしない

日本のスタートアップでは、税制適格ストックオプションを利用するケースが多いです。

税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで、権利行使時ではなく株式売却時に課税される取扱いが可能になる制度です。これは、受け取るメンバーにとって大きな意味があります。

もっとも、税制適格にするためには、付与対象者、権利行使期間、権利行使価額、年間行使限度額、契約内容、保管委託など、複数の要件を確認する必要があります。

現場で怖いのは、「税制適格のつもりで設計していたが、後から見ると要件に合っていなかった」というケースです。

特に、社外協力者への付与、信託型ストックオプション、海外居住者、業務委託先、役員就任前後の付与などは、慎重に確認したほうがよいと考えています。

税務については税理士との連携も必要になりますが、会社法上の発行手続、契約内容、投資契約との整合性は、法務としても早めに見ておくべき領域です。

投資家との交渉では、ストックオプションプールの負担を確認する

シリーズAでは、ストックオプションプールを投資前に作るのか、投資後に作るのかが論点になることがあります。

投資前にプールを作る場合、既存株主側の希薄化負担が大きくなります。投資後に作る場合、新規投資家も希薄化を負担することになります。

この違いは、バリュエーションの見え方にも影響します。表面的なプレマネー評価額だけを見ると条件が良く見えても、投資前に大きなストックオプションプールを作る前提であれば、創業者や既存株主の実質的な持分は想定より下がる可能性があります。

そのため、タームシートを見るときは、バリュエーション、調達額、発行株式数、ストックオプションプール、希薄化後の持分比率をセットで確認する必要があります。

ストックオプションは人事制度の話に見えますが、投資契約の経済条件そのものでもあります。

付与の理由を、社内と投資家に説明できる状態にする

ストックオプションは、付与時点では社内向けのインセンティブ制度に見えます。しかし、次回ラウンドやM&Aのデューデリジェンスでは、「なぜこの人にこの数を付与したのか」「他のメンバーとのバランスはどう考えたのか」「退職者分をどう扱ったのか」といった点を確認されることがあります。

そのため、付与対象者ごとの貢献期待、役割、入社時期、報酬水準、既存メンバーとの公平感を、社内の意思決定メモとして残しておくことが望ましいと考えます。議事録に細かな事情まで書く必要はありませんが、経営陣がどの材料を見て判断したのかを後から追える状態にしておくと、説明の負担は軽くなります。

また、採用候補者に対しても、ストックオプションの価値は単純なパーセンテージだけでは伝わりません。行使価額、ベスティング、退職時の取扱い、今後の希薄化、上場やM&Aまでの不確実性を、誤解が生じにくい形で説明することが大切だと考えられます。ここを曖昧にしたまま採用の口説き文句として使うと、後で信頼関係に影響する可能性があります。

実務で確認する書類と判断メモ

ストックオプションの実務では、発行要項だけを見ても足りません。資本政策表、付与候補者一覧、採用計画、報酬水準、既存株主との契約、投資家向け資料、取締役会議事録、株主総会議事録、割当契約書、新株予約権原簿までつながっています。

私が特に確認するのは、付与割合、行使価額、ベスティング、退職時の取扱い、企業買収・合併等の場面での取扱い、税制適格要件、付与対象者の範囲です。ここは制度設計だけではなく、採用と資本政策の問題です。

たとえば、重要な幹部候補に大きめの付与をする場合、その人が入社しなかった場合、早期退職した場合、期待した役割を果たさなかった場合にどうするのかを考える必要があります。単に「何パーセント渡すか」ではなく、いつ権利が確定し、どの条件で失効し、退職後にどの期間行使できるのかを設計する必要があります。

また、既存メンバーとの公平感もかなり重要です。後から入った幹部候補に大きな付与をすると、創業初期からいるメンバーとの関係に影響することがあります。他方で、採用競争上、一定の付与をしなければ採用できない場面もあります。このバランスは、法律論だけでは決まりません。

そのため、付与時には、取締役会や株主総会の決議書とは別に、社内用の判断メモを残しておくことが望ましいと考えます。「なぜこの人にこの水準を付与するのか」「他のメンバーとのバランスをどう見たのか」「退職時の取扱いをどう説明したのか」が残っていると、次回ラウンドやデューデリジェンスの場面で説明しやすくなります。

制度は、運用できる形まで作る

ストックオプションで意外と見落とされるのが、運用です。

誰に、いつ、何個付与したのか、株主総会決議や取締役会決議はあるのか、契約書は締結されているのか、退職者の未行使分は管理されているのか、行使請求が来た場合の手続は決まっているのかを、あとから説明できる状態にしておく必要があります。

シリーズA後は採用人数が増え、付与対象者も増えます。最初はスプレッドシートで管理できていても、数十名規模になると、ミスが起きやすくなります。

また、次回ラウンドやM&Aのデューデリジェンスでは、ストックオプションの発行手続と管理状況も確認されます。書面や決議が不足していると、説明や補正に時間がかかることがあります。

LegalAgentでは、スタートアップの資本政策、投資契約、株主間契約、ストックオプション設計について、AIと弁護士が協働しながら、スピード感を持って確認する体制を作っています。

AIは、既存の資本政策表、付与一覧、決議書、割当契約書、投資契約の棚卸しや、論点抽出、文案作成を速くするために使います。そのうえで、誰にどの水準を付与するのか、税務・会社法・投資契約との関係でどのリスクを取るのか、投資家や候補者にどう説明するのかは、弁護士と経営陣で検討する領域だと考えています。

ストックオプションは、間違い探し型の法務だけでは足りません。採用を進めたい、既存株主の希薄化も抑えたい、次回ラウンドで説明できる制度にしたいという複数の要請の間で、会社としてどの選択肢を取るかを決める作業だと考えられます。

シリーズA前に、ストックオプションプール、付与条件、税制適格性、発行手続、投資家との条件交渉をまとめて見直したい場合には、1営業日での一次回答を基本に、固定金額で対応できる範囲も含めて検討できると考えています。

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